
モモちゃん: えーと、はい……あー、はい……。あのー、はい……。


小野口課長: もう、すっかり春ですねえ。桜も咲いたし。そうだ、モモちゃん、4月頃から桃の花が咲く時期じゃない。モモちゃんも、今年はパーッと咲かないとね。
少々お待ちいただけますか。課長!


あ、電話対応中でしたね。こりゃ失敬。
すいません、お電話代わっていただけませんか。


え、どうしたの? 何かトラブっちゃったの? お願いしますよー。
いえ、そうじゃなくて。おじいさんからのお問合せなんですけど、方言が強くて。課長はバイリンですよね。


てゆうか、英語はオーケーだけど。東京生まれの東京育ちだし、方言はあんまり強くないよー。
いいから!お困りのようなので、早くお願いします!!


はーい。 あ、お電話代わりました。上司の小野口でございます。どのようなことでお困りですか。
福山果樹園の会長: おめさま方は、通販の専門家だべ?


えー、あー、はいはい、ですです。私ども、通販の専門家です。
うちの果樹園では桃の通販ばやてるのだばって、のがのが利益が出ねハデ困っていだし。


あー、えー、ああ! 桃の通販で利益が出なくてお困りなんですね。
そやぐどう。専門家の見地がきや知恵ば貸していただげねだべか。


えー、あ! 知恵ですね。はい!私ども、DMお悩み相談課にお任せください!
あーしがたんずや。あんた、しぐわの話が分がたね。あんたみての人が、話の通じる男つうんだの。


あー、あはは。ですです... あー、なるほどですね、それはそれは。


ふぅー。
課長、さすがバイリンですね!


さあ、モモちゃん。相談課始まって以来、初めての出張だ!
やったー! 出張だー。 って、いつ? まさか!


つい、これから行きますって言っちゃってね。昼過ぎには着くでしょ。すぐに新幹線チケットの手配をお願いして。
はあ、ずいぶん緊急なんですね。座席取れますかね?


3人分ね。
え? もう一人、誰ですか? あ、お悩み相談課の桃山ですけど。急で申し訳ないのですけど、、、お願いします。


通訳が必要ですからね。
総務の鈴木さん: おつかれさまですー。新幹線の座席、3人分取れましたー。


うわー、さすが仕事早いですね。というか、もしかして、今そんなに忙しくないですか?
はい、今日はどちらかと言えば暇なので、日帰り出張くらいなら大丈夫ですよ。


よかった。じゃあ、お言葉に甘えてもいいでしょうか。
もちろん。私は総務課ですから。



「牛肉どまん中」だって。あー、おいしい。牛肉好きの私には、まさにどまん中です。
東京駅ってなんでも売ってるんですね。あ、それ、牛タンでしょ。すごーい、おいしそう。

ラインのなっちゃん: たしかに牛タンは美味しいですけどね。


なっちゃん、なんか元気なくない? どうしたのかな。
課長!朝から拉致られて出張に付き合わされたら、ねえ。

はい。私は、どうしてここにいるのでしょう。


なっちゃんは、どちらのご出身なの?
青森です。


やっぱり!去年の納涼会で、あなたが酔っ払って話してた言葉が、電話のおじいさんと同じだったんですよ。
あー、なるほど、通訳ですね。課長も細かいことをよく覚えてますよね。

それで、どこへ向かっているのでしょうか。

なつ先輩、桃の花咲く果樹園ですよー。桃の花見は初めてです。

あー、桃源郷っていうスゴイところもあるよ。ちょうど見頃かもね。


モモちゃん、桃畑に行くの巻、なんてねー。たまには社外に出るのも、いいものでしょ。
なつ先輩、無理してリアクションしなくていいですから。それにしても、鈴木さん、電話番大丈夫かな、心配ですね。

はい。DMお悩み相談課の代理の総務の鈴木と申します。え?はい、ワタクシ総務課の鈴木です。



果樹園の福山社長: こちらからお伺いすべきところを。お呼び立てしまして恐縮です。
いえいえ、お気になさらず。緊急事態ですから。


それほどいそうでいねがきや、近いうちサわどもがお尋ねするんだば申し上げたんだが。
なつ先輩、なんとおっしゃったんですか。

それほど急いでないから、近いうちに、こちらからお尋ねします、と伝えたって。


えー、そうなの?てでっちゃがはっきりしゃべきやねがきや、こういうごどサのるんだばねか。
お父さんがはっきりしゃべらないから、こういうことになる、って。


本当に申し訳ありません。親父の津軽弁が強いもので、たまに行き違いがありまして。
課長、ちゃんとお話を聞いてました?

てゆうか、社長さまは標準語ですし、私、いても意味ないような。

はは……。 では、さっそく本題に入りましょうか。事は急を要します。えーと、お悩みをー、最初からお願いできますか。


今朝、お電話で申し上げたんずやしうサ。

親父はいいから……。私どもは、桃をはじめ、さくらんぼ、りんごなどを生産する農家です。この会長が若い頃、この土地にやって参りまして、私が2代目を勤めています。 10年ほど前、これからの農家は事業家であるべきだと考えまして、通信販売で果物の直売を始めました。 都会の値段と比べれば、うちの桃はリーズナブルなので果樹園を見学にいらした方のクチコミを中心になかなかの業績でしたもので、全国で新聞広告やチラシで販促も行ってきました。
へえ、顧客の獲得もなさって、本格的な通販事業ですね。

採れたて完熟の桃が安く届けてもらえるなら、わたし毎年注文しちゃいますよ。


そうですね。市場に出すものよりご家庭に早くお届けできますので、ある程度、樹上で熟しておきます。 すると糖度が高くなって大変甘い果実をお届けできます。ご自宅にお届けした2,3日後がちょうど食べごろですね。
おいしそー。私も桃は大好きです。


今は収穫時期でねしはで絞り汁ばまぐきやてしてけろだば。
へえ、桃のジュースですか。いただきます……うん、これは、旨い。めったに味わえない貴重品ですね。


調子に乗って作ってみましたが、これも評判が良かったですよ。
うわっ、おいしい!

桃を食べてるみたいです。

それにしても、商品の独自性もありますし、素晴らしいと思いますけど、どういった点が問題ですか。


はい。こうして長年続けてきたのですが、このところすっかり広告の反応が悪くなりまして、全然儲からないのが問題です。 もっとたくさんの方にうちの桃を味わっていただきたい一心で続けていますが、もはや通販は赤字です。このままでは通販部門は縮小せざるをえません。
あー、広告費が回収できませんか。


はい。一番はそれです。でも大勢の人に知ってもらわねば売上が増えませんので、痛し痒しです。
ん? あのう、これまで獲得した顧客数って、累計で何人くらいになられましたか?


え? まあ、日本全国かなり大勢の方にお求めいただきましたから……相当な数になると思いますけど。
あー、なるほどー。課長、そういうことみたいですね。

うん。そういうことみたいだね。


そういうごどって、何んぼいうごどだべか?
はい。意外と簡単な問題かもしれませんよ。モモちゃん、通販売上の計算式は何でしたっけ?

はい。通販の売上は、こちらです!

【通販売上の計算式】
売上=顧客数×商品単価×購入個数×購入回数
社長、これらの要素のうちで不足しているものは、何だと思われますか?


ああ、はい。売上は、買ってくれるお客さまの数。かけることの商品の値段、ですよね。 うちの場合、広告を出したときに、大抵のお客さまが1箱お求めですので、個数と回数というのはあまり考えたことがありません。とすれば、、、購入個数と購入回数、でしょうか。
こちらの通販で利益の出ない原因は、広告を出した時にかかる一人あたりの顧客獲得費用が、その顧客の購買金額より大きいからだと思われます。だとすれば、一人あたりの購買金額を高めてあげれば、費用と収益が逆転するはずです。


え? じゃあ、通販は広告でお客様をたくさん集めれば、売上が上がって利益も出る、という仕組みではないのですか。
はい。闇雲にたくさんの顧客を獲得しても、次にその人達がたくさん買ってくれなければ利益は出ません。


のんど、知りねだったんずや。

広告するだけではだめですか。でも、たくさん買ってもらう方法なんて、どうすればいいんでしょうか?
モモちゃん、顧客購買金額を増やすためには、どんな方法がありますか?

はい。一度買っていただいたお客様に、ダイレクトメールを送られてはいかがでしょうか。


え? ダイレクトメールって、郵便で届くあれですか?
はい。郵便で届くDMです。あれを使って、せっかく広告で獲得したお客様に直接、商品のご案内をするんです。 例えば桃をお求めの方に、季節が終わる頃にもうすぐ在庫終了のお知らせをするとか。 その後は一年を通じて楽しめる桃ジュースをおすすめしたり、秋にはりんごをご案内するとか。 それによって顧客のリピート購買回数が高まりますので、徐々に顧客一人あたりの購買金額も向上していきますし、そういったお勧めを心待ちにしているお客様が必ずいらっしゃいますよ。


はあー、しかし相当な人数に手紙を書かないとなりませんから、それはひと苦労ですね。
え? もしかして、お客様の発送先リストは全部手書き、ですか?


いやいや、さすがにそれはパソコンで管理してます。手書きでは発送が間に合いませんからね。

あーよかった。それならDMは印刷物にすれば簡単に既存顧客への販促キャンペーンができます。最初はテストのつもりで、あまり費用のかからないハガキDMでご案内してはいかがでしょう。あ、DMテストについては、こちらをご覧ください。

そうですね。うちも人出がないものですから、あまり手間暇かからないやり方でしたら、是非チャレンジしてみたいです。 せっかくのご縁ですのに、忘れられてしまうのは寂しいものです。私どもからもっと積極的にお客様にご説明しないといけませんね。
はい。お客様の一人ひとりに、手塩をかけて大切に育てた美味しい桃を、またご案内してさしあげましょう。また食べたいと思っていたお客様が、きっと大勢いらっしゃると思いますよ。


そうですね。よし、DMで、もう一度お客様に語りかけてみようと思います。注文が増えれば嬉しいですね。ちょっと元気が出てきました。ありがとうございました。
はーい! 私、絶対に注文します。

あのジュースはクセになりますねー。


親父、いいひどだじば呼んでぐれてわいーめわぐだのー。

気サするの
なつ先輩? なんて言われたんですか?

いい人達を呼んでくれて、ありがとう。 気にするな、って。


今はちょうど桃の花が満開です。桜ともまた違った風情で可愛らしいですよ。お帰りの道中に是非ご覧ください。
では、これで失礼します。またお悩みがあれば、いつでも参上しますから、お声をかけてくださいね。



うわー!桃の花が満開ですね!

こんなのはじめてー。


桃の樹がずーっと続いてるんだね。知ってた?桃源郷って探すと見つからない場所なんだって。
知ってますよ。三蔵法師とか、孫悟空とかが目指した場所ですよね。


んー、それは天竺じゃない?
このまま駅まで歩きませんか。

仙人が住んでそうですね。いやー風流風流、絶景かな絶景かな。ヤッーーーホーーー!


モモちゃん、山じゃないからコダマは返ってこないよ。
課長もいいところあるんですね。ちょっと見直しました。

え? 何が? なつ先輩。課長のどこがいいところなんですか?


さてと、帰りの駅弁は何がいいかなー。
つづく